兵庫県立神戸高等学校同窓会

インタビューのコーナー

みなさん、こんにちは!
大好評のインタビューコーナー第11回は、進学塾だけでなく、国内50教室、海外6校あるそろばん教室「キッズ珠算会」「Sakura Soroban Vietnam」の代表、有限会社クエスト企画 代表取締役 岸本忠生さん(26回生)です!
進学塾だけでなくそろばん教室も国内外に展開しています
ベトナムでのそろばん授業風景(ハイフォン・ハノイ)

同窓会広報担当者(以下「WM」);
このたびはお忙しいところインタビューをお引き受けくださり、本当にありがとうございます!
1か月の半分近くをベトナムで過ごされている岸本さん。昨年、神戸新聞にもそのご活躍が取り上げられていましたね。

岸本さん;
現在小学生から高校生までを対象とした進学塾「クエスト進学ゼミナール」、及びそろばん教室「キッズ珠算会」を開校しています。そろばん教室は「キッズ珠算会」として国内50教室、海外では「Sakura Soroban Vietnam」が6校あります。生徒は約2000名います。

WM;
私が神高生だった頃、阪急六甲駅北側の「クエスト」という看板を見ながら毎日通学していました。最近では、「キッズ珠算会」の黄色い手提げバッグを持った小学生をよく見かけます!
そろばん人気も復活しているような印象です。

岸本さん;
私は神戸高校を卒業後、早稲田大学の理工学部に進学しました。外資系コンピューター会社に就職後は関西に配属されこちらに戻ってきましたが、4年で退職。
私立中学受験、公立高校受験といった自身の経験や知識を活かして28歳で学習塾を立ち上げました。

WM;
そろばん教室は10年前に始められたのですよね。順調に進んでいた学習塾の事業のほかに、そろばん教室を始められたきっかけを教えていただけますか。

岸本さん;
きっかけと言えば、当時私の学習塾に珠算の4段を持っている講師がいたことでしょうか。私も小学校5年生のときに珠算3級をとっていたそろばん経験者でしたしね。
当時はそろばんの人気が低迷している時期でしたが、意外にも生徒が集まりました。
やるからにはきちんとやりたいと、事業立ち上げに際してはいろいろな方にお話を聞きましたし、チラシポスティングなどで宣伝もしました。
その後、映画「武士の家計簿」やNHK連続テレビ小説「あさが来た」の人気も追い風となり、そろばん教室の事業も拡大したのです。


 
ベトナムでの起業には苦労しました
ベトナムの現地スタッフと
WM; 
日本国内だけでなくベトナムでも6校、そろばん教室を開校されておられるとのことですが、どうしてベトナムで開校されるに至ったのでしょうか。

岸本さん;
きっかけは、2016年10月に神戸市海外ビジネスセンターがベトナムで開いた神戸市と現地企業との商談会に参加したことです。当時神戸市のアドバイザーだったコンサルタント、ウイトコ株式会社代表取締役の中田晴久さんが神戸高校時代のクラスメートだったこともあって、ベトナム北部ハノイ近くのハイフォンにはコネクションがあるという彼を信じ、ハイフォンでのそろばん教室を開校しようと。

とはいえ、ベトナムでの会社設立はとても大変でした。
ベトナムは中国と同じ共産主義国家であり、経済発展が著しいとはいえ、まだまだ外国企業に対して自由度が低いと言いますか・・・。外資100%でしかも教育・出版業は国民の思想に直接影響を与えうるという理由で、認可をとるのがとても難しいのです。某日本の有名塾がベトナムに進出していますけれど、社会科だけは認可が下りていないと聞いています。
日本だと事業を始めるにあたり、「この書類を用意してください」と役所で説明してくれますが、ベトナムでは申請をしてからあれが足りないこれが足りないと言われ、ひどい時には返事すらなかったりします。

ホーチミンではなくハイフォンに開校したのは、先ほどお話した神戸高校のクラスメートがハイフォンのことをよく知っていると聞いたからですが、ベトナムは南北差が大きく、かつてアメリカが統治していたホーチミンが商業の中心地であるのと対照的に、北にあるハノイやハイフォンは政治の中心地です。世界的に展開している某学習教室も、ホーチミンに13教室あるのに対し、ハノイには1教室しかありません。そういう北部地域にあえてそろばん教室を開校しようと思いました。

ベトナムは親日国です。
在ベトナムの日本人はもちろん「そろばん」がどういうものかよくご存じですけれど、ベトナム人も日本の教育レベルの高さをよく知っていて、同じアジアの先進国である日本に対する憧れのようなものもあるのかと思います。
また、ベトナム戦争終結後45年を目前にした今、ベトナムでは子どもの人口も増えています。子どもの教育のためにお金をかけることを厭わない親御さんも多いです。日本の昭和時代のような感じでしょうかね。

昨年6月に開校したハイフォンの教室の生徒さんたちは120人ほどですがすべてローカルのベトナム人です。
それに対して、今年3月に開校したハノイの教室に来ている生徒さんは50人ほどで、現地の日本人学校に通う日本人です。5月末からはベトナム人のローカルクラスも体験レッスンを開始しました。

WM;
ベトナムでは「そろばん」は認知されているのでしょうか。ベトナムでそろばん教室を開校するにあたり、特に意識されたことはありますか。

岸本さん;
ベトナムでの開校にあたっては、ベトナム人スタッフの人材育成にも注力してきました。
日本のそろばんが浸透しているわけではありませんから、ベトナム人のそろばん講師を育成することが事業のポイントになります。現地での研修には私自身が出向いて指導するだけでなく、ベトナム人講師たちにも来日してもらい、日本で行われている珠算の検定試験を受検してもらっています。

珠算の検定試験に関して言えば、日本の教室では日本の検定試験を受検できますが、海外では日本の検定を受検できません。
けれども海外に駐在している日本人家庭のお子さんは、帰国後のことも見据えて検定試験を受けたいものです。そこで私の教室では、今秋から日本の珠算の検定試験のレベルに準拠したオリジナルの検定試験を実施し、現地の日本人子女が日本に帰国後も継続して検定試験に挑戦していけるようにする予定です。

WM;
​そろばんで「掛け算」をするときにはその前に「九九」を覚えなくてはなりませんが、ベトナムの子どもはどのように九九を覚えるものなのですか。

岸本さん;
​ベトナムでは日本のように「九九一覧表」で覚えさせるのではなく、出てくるたびに、その九九を覚えさせているようです。けれども私どものハイフォンの教室では、日本式に日本の九九表をそのままベトナム語に訳して覚えさせています。例えば、「2×2=4 (にに んが し)」をベトナム語では「2×2=4 (ハイ ハイ バー ボン)」と言います。
​日本ではそろばん教室に小学校1年生から通わせるご家庭が多いですが、ベトナムでは小さい5歳頃から始める傾向があると思います。
「勉強だけできても尊敬されない」当時の神戸高校はそんな雰囲気でした
ベトナム ハイフォン教室 TV取材の様子
WM;
「ハイ ハイ バー ボン」!面白いですね!
ところで岸本さんご自身が神戸高校を志望された理由を教えていただけますか。

岸本さん;
私は私立中学受験をし、甲陽学院中学校に入学しました。両親は家業で小さい船に乗っていました。今のHAT神戸や近代美術館があるところは、昔は神戸製鋼の工場に隣接する港だったのですが、そこに船をおいて、神戸製鋼の鉄製品を船で運搬する仕事をしていたのです。
その両親は、私が高校進学を目前に控えた中学3年生の1月17日、いつものように泉北へ船で行く途中、海難事故で亡くなりました。両親がいないのでこのまま私立に通うのは難しいと判断した周りから勧められる形で、急遽神戸高校を受験したのです。中・高一貫の私立学校に行っていたわけですし、1月に両親を亡くした直後でしたから、まったく高校受験の準備をせずに神戸高校を受験しました。

私には兄と姉がいて、兄は神戸高校22回生、姉が神戸高校24回生でした。
兄は神戸高校から大阪大学に進学し神戸製鋼に勤めていましたが、両親が亡くなった24年後の1995年、あの阪神大震災で兄のお嫁さんと共に亡くなりました。震災も同じ1月17日でした。不思議なものですね。

WM;
ご両親を突然亡くされて、転校のような形で神戸高校に入られたのですね。

岸本さん;
​そうです。私の学年には、私のほかに、中・高一貫の私立中学から神戸高校に来た人が4人いました。理由はそれぞれだと思いますが、私以外の方は、「国立大学に進学したい」とか、そういった理由で神戸高校に来たのではないかなと思います。

WM;
​甲陽中学と神戸高校、どちらも伝統校ですが、岸本さんは両方をご存知ということですね。
どういう違いがありましたか。

岸本さん;
​「いい」学校は「学校が生徒を縛らない」ものです。甲陽中学も神戸高校も、学校が生徒を大人扱いしてくれるので、そこまで生徒を縛っていなかったように思います。
​甲陽中学は男子校ですし、1学年180人くらいで3クラスでした。当時はクラブ活動もそこまでがっつりやるという感じではなく、生徒たちはおっとりしたタイプが多かったですね。対して神戸高校は男女共学。クラブ活動にも本気で挑んでいる人ばかりでした。「勉強だけできても尊敬されない」、そんな雰囲気だったように思います。(笑)

 
高校時代は体育会系、「古き良き時代」の神戸高校で3年間を過ごしました
ベトナム・ハイフォン TV取材クルーにもそろばんを教えました
WM;
岸本さんは神戸高校時代、どのような神高生でいらしたのでしょうか。

​岸本さん;
​私はバリバリの体育会系でしたね。野球部のキャプテンをしていて、外野手で打順は3番でした。10分間の休み時間に食事をして、昼休みはグランドでトンボをもって整地していました。
​当時は「古き良き時代」と言いますか文武両道で、野球部と同じグランドで練習しているサッカー部、ラグビー部は全国大会に行っていましたし、それでも現役で京都大学に進学した同級生もいます。サッカー部に至っては、正月の全国大会で準々決勝に進出して強豪の帝京高校とあたって同点。当時はPK戦というものが導入される前でしたので、コイントスで負けてベスト8だったのです。そのあたりの詳しいことは、私ではなくサッカー部のOBに聞いてみてください。(笑)

WM;
サッカー、昔はコイントスで勝敗が決まっていたのですか!驚きました。
全国大会にも出場しながら現役で京都大学・大阪大学等国立大に進学・・・。まさに「文武両道」の神戸高校ですね!

岸本さん;
私自身は、家庭の事情もありましたから私立大学に行くという選択肢が最初からなくて、現役時代は某大学の医学部を志望しました。今はなくなってしまいましたが、阪急御影にあった大道学園で1年間浪人生として学んだあと、翌年に東京工業大学に出願しました。たしか3月3日が試験日だったように記憶しています。それで、「どうせ東京に行くのだから、ついでにほかの大学も受けておこう」と、私立で一番試験日が遅く3月1日に受験だった早稲田大学の理工学部にもたまたま出願していました。
東京工業大学は、現役時代の先生の手違いがあって内申書で不合格になり受験できず、その結果、早稲田大学に進学しました。


 
在学中よりも、卒業してから会う神戸高校OBOG(同期、先輩、後輩)の方が多い、そんな気がします
ベトナム語の九九表
WM;
ところで岸本さんはコーラスもされておられるとか。野球部キャプテンとしてバリバリの体育会系だった岸本さんが、どうしてコーラスを始めることになったのでしょうか。

岸本さん;
私とコーラスとの出会いは大学に入ってからでした。当時私はお金がなく、お金がかかる運動系のクラブには所属できない状態でした。大学2年生の時に合唱と出会い、コーラスに目覚め、卒業後もずっと携わることになりました。

最初はあのサリマライズの大元である「神戸中央合唱団」に所属し約30年間歌っていました。
神戸中央合唱団は、神戸一中ご出身の中村仁策さんが創設し、ご子息の中村健さん(21回生)も指導された合唱団です。

その後、関西フィル合唱団などを経て、松蔭女子学院大学で毎年行なわれている「神戸松蔭クリスマス・チャリティーコンサート」に合唱団として出演したメンバーが中心となって、2011年のはじめに「バッカス コンソート」を立ち上げました。私がその団長を務めています。
当初は数人のコーラスアンサンブルグループとしてスタートしましたが、2012年に常任指揮者として山口英樹氏を招聘し、現在は約25名が在籍しています。演奏曲はルネサンス時代のアカペラ合唱曲が中心で、宗教曲、世俗曲を問わずに演奏しています。リコーダー等の器楽を交えての演奏がひとつの特徴です。 「バッカス コンソート」にも神戸高校卒業生がたくさんいますよ。

WM;
お話を伺っていると神戸高校OBOGのお名前がどんどん挙がってきますね。
岸本さんが、高校ご卒業後、「神戸高校OBでよかった!!」と思われることはありますか。

岸本さん;
良かった!と思うことはたくさんありますよ。気づけば仕事でもコーラスでもたくさんの神戸高校卒業生と接点がありますね。
弊社には「カレッジ神戸」という音楽を中心としたカルチャー教室のスクールがあって、毎年教会コンサートを行っています。有名な畑儀文さん(テノール)の指揮で、オーケストラも参加しての演奏会なのですが、実はそのオーケストラも、神戸高校OBオーケストラの有志メンバーたちで構成されています。(笑)

そうですね、たしかにこうしてよく考えてみると、周りには神戸高校OBOGが結構いますね!(笑)
​在学中よりも、卒業してから会う神戸高校OBOG(同期、先輩、後輩)の方が多い、そんな気がします。
もちろん、中学や大学の同期とのつながりも大切にしていますよ。
 
今後のことはゆっくりと考えたいと思っています
日本で使っている自社オリジナル教材をそのままベトナム語に翻訳しています
WM;
塾、そろばんあわせて、国内外に多くの教室、多くのスタッフ、多くの生徒を抱えておられる岸本さんですが、今後のビジョンを教えていただけますか。
ベトナム以外の国でそろばん教室を開校したい!などお考えなのでしょうか。

岸本さん;
いえいえ、ベトナム以外の国でそろばん教室、というのは今のところ考えていませんね。
私自身の年齢のこともありますし、この先のことは今考えているところです。けれども長年の事業の中で既に確立されたビジネスモデルがありますから、たとえば国内の阪神間以外の場所に展開するにしても、ベトナムでもっと教室を拡大するにしても、そのモデルにあてはめれば実現は可能だと思います。
ベトナムは今、子どもの数がとても多い上に、教育熱心な親が多いですから、ベトナム国内でもう少し教室を増やすことになるかもしれませんね。
ベトナムのプロジェクトが始まってからこの1年6か月の間に、通算30回はベトナムに行っています。私には定年というものがないので、一生ビジネスを続けていくことが可能ですからね。まぁゆっくり考えたいと思います。

WM;
最後になりましたが、このHPは多くの卒業生だけでなく在校生、今後神戸高校を志望するかもしれない中学生もご覧くださっています。みなさんにひとこと、いただけますか。

岸本さん;
​そろばんは単に計算が早くなるだけのものではありません。右脳を鍛えて、集中力、精神力、暗記力も身につけることができますから、あらゆる自信につなげていくことができます。是非あなたも、そろばんを習ってみてください。


WM;
日本におられるわずかなお時間の間に、このようにインタビューにご協力くださり本当にありがとうございました!
岸本さんのこれからの益々のご活躍をお祈りいたします。
 
《岸本忠生氏 プロフィール》 

甲陽学院中学
神戸高等学校
早稲田大学理工学部卒業後、外資系コンピューター会社に就職
28歳の時に退職し学習塾を立ち上げる

有限会社クエスト企画 代表取締役